がんの脳への転移と
日常生活

転移性脳腫瘍の主な症状

脳の障害・症状

先ずは脳の障害・症状について解説します。

運動に関する症状

■ 麻痺

自分の意志で手や足を動かすことができない症状です。

■ 失調

明らかな運動麻痺はありませんが、体の動きをうまくコントロールできず、スムーズな運動や姿勢保持ができない(平衡障害)症状です。

■ 振戦 (しんせん

手足が運動時や目標物に近づけようとすると小刻み(不規則)に震える症状です。

言語に関する症状

■ 失語症

言語を理解し、表出する能力の一部、あるいはすべてが障害される状態です。「運動性失語症」と「感覚性失語症」があります。前者は、言葉の理解は比較的できますが、思ったように言葉が出ない症状です。後者は言葉の理解が困難なため、スムーズに発音ができても、意味のある言葉を話すことが難しくなるような症状です。

■ 構音障害 (こうおんしょうがい

言語を理解する能力は全く障害されていませんが、話すための口や舌の運動機能の障害によって言葉がでない(発音がうまくできない)状態です。

■ 失読・失書

読み書きができなくなる障害です。

感覚に関する症状

■ 感覚障害(体性感覚障害)

温度覚、痛覚、触覚など体の各部から入ってくる感覚やからだの位置や姿勢を感じる位置覚、振動を感じる振動覚などの認識ができなくなります。視床が障害されると痛みやしびれを感じることがあります。

■ 視覚障害

視野とは、目を一点に注視した状態で見られる範囲を言います。欠ける範囲で「半盲」や「1/4盲」があります。

■ 聴覚障害

音が聞こえない、聞こえにくいなどの状態です。

認知に関する症状

■ 記憶障害

記憶には、「覚える」、「保持する」、「思い起こす」の3段階がありますが、そのいずれかが障害され、新しいことが覚えられない、覚えていたことが思い出せない、人の名前、時間や場所がわからなくなるなどの症状が起こります。

■ 失認

視覚や聴覚、嗅覚などの感覚情報から得られた対象物がわからない状態を言います。
見た物体がわからない(物体失認)、顔をみても誰かわからない(相貌失認)、音を音として認識できない、音が何の音かわからない(聴覚失認)、自分の体を認知できない(身体失認)などがあります。

■ 注意障害

注意を適切に向けることができない、集中することができないような状態を言います。具体的には、ぼんやりしていて、周囲の人や物に関心を示さない、気が散りやすい、2つ以上のことを同時にできないなどの症状が起こります。

■ 社会的行動障害

意欲の低下、すぐに他人を頼る、感情をうまくコントロールすることや衝動的な行動の抑制ができないなどの症状がみられます。温厚だったのに、怒りっぽくなったなど、「性格が変化した」と捉えられることもあります。

■ 失行

運動麻痺や感覚障害はありませんが、目的に合った行動や指示された動作ができなくなる症状です。
手先を使った細かい動作が下手になる(肢節運動失行)、道具の使い方、それに関連した一連の動作の手順がわからなくなる(観念失行)、衣服を正しく着たり脱いだりができない(着衣失行)、自発的にできる日常行動でも、指示されると動作が上手にできなくなる(観念運動失行)などがあります。

自律神経障害

自律神経は、体温や血圧、内臓の機能(消化、排泄等)などを調整する働きをしますので、自律神経障害は、体温調整がうまくできない、呼吸、循環を含む生命維持に必要な内臓機能の異常、覚醒・睡眠のリズムのみだれなどが起こります。

下垂体機能低下(かすいたいきのうていか

下垂体は、ホルモンを分泌、調整する働きがあり、成長・発育、体の代謝、尿の生成などに関わります。減少するホルモンの種類により、症状は変わりますが、疲れやすい、体重減少または増加、月経異常などが起こります。

脳神経障害(麻痺)

脳神経は、脳から出る末梢神経で左右に12対あります。役割は、嗅覚、視覚、聴覚、味覚などの感覚を脳に伝える、目や舌の運動、顔の表情(筋肉)を作る、首や肩を動かすなどの運動機能の調整、涙や唾液の分泌、内臓器官の運動(呼吸・心拍・消化管の運動など)と感覚(痛み・吐き気・動悸など)情報を脳に伝えるなどです。このように、12対の脳神経はそれぞれに役割がありますので、障害を受けた脳神経に応じた症状が出現します。

脳神経障害の症状の例

・複視(物が二重に見える)・眼瞼下垂(がんけんかすい)・顔の表情筋の障害
・聴力低下 ・味覚障害 ・めまい ・嚥下障害 など

中枢神経系と末梢神経系

神経系は「中枢神経系(ちゅうすうしんけいけい)」と「末梢神経系(まっしょうしんけいけい)」とがあります(下図参照)。
中枢神経系は脳と脊髄(せきずい)のことで、全身から集まってくる情報を処理し、指令を発信します。
末梢神経系は、中枢神経と体の各部を結び、中枢神経から発信された指令を伝える、体の各部からの情報を中枢神経に伝える、体温や血圧、内臓の機能を調整するなどの役割を担っています。

中枢神経系と末梢神経系(イメージ図)

赤色で示した脳と脊髄が中枢神経系です。

中枢神経系から出ている黒い線が末梢神経系です。