抗がん剤・放射線治療と食事のくふう

症状と対策

口内炎(口腔内の炎症・乾燥)の解説

口内炎はおもに抗がん剤治療によって起こりますが、頭頸部、特に口腔内や咽頭部への放射線治療によっても起こります。いずれの場合も、味覚や嗅覚の変化といっしょになることも少なくありません。そうなると、食事をとる入り口が二重にも三重にも損傷を受けるので、食欲不振を招きやすく、回復力に影響する心配もあります。それだけにケアには充分な配慮が必要です。

  • 口内炎(口腔内の炎症・乾燥)で悩む患者さんの声

    2回目の手術後の抗がん剤治療の副作用による抜け毛、足のしびれ、口内炎もつらかった。

    抗がん剤に苦しんでいる。
    手足のしびれで歩きにくい、口内炎で食事がしにくいことに悩んでいる。

    口内炎とのどの痛みがとても強く、病院内の他診療科の診察を受けたが、担当診療科からは治療や助言はほとんどなく、うがい薬と口腔用軟膏が処方されただけだった。

    抗がん剤を7か月飲んだが、下痢と口内炎に悩んだ。

    放射線治療時は口内の歯に銀が入っていたため、熱をもち、口内が真っ赤になり、アイスなどの冷たい物が口にできなかった。

    放射線治療により口の中が痛くて物が食べられなかった。

    舌に対する放射線治療を33回行ったところで、口の中が白くなり、食物の味が次第にわからなくなって食欲もなくなり、体重が約10kg減った。

  • 医師から「口内炎と乾燥は合併しやすい」

    抗がん剤で粘膜の細胞が傷つきます

    抗がん剤はがん細胞とともに、分裂の活発な正常細胞にもダメージを与えます。口の中の粘膜の細胞もその1つです。そのため、抗がん剤治療が開始されると、口の中の荒れや痛みが生じ、唾液の分泌も低下し、口内炎が悪化しがちです。これに、抗がん剤の副作用である白血球減少が加わると口腔内感染症が悪化する可能性があります。そこで、治療開始前の口腔ケアがたいせつです。

    放射線治療で唾液が出にくくなります

    唾液腺の付近に放射線の照射を受けると、唾液腺が萎縮して、唾液が出にくくなります。そのため、口内が乾燥して、さらに傷つきやすくなります。

    抗がん剤・放射線治療により、唾液が少なくなったり口の中やのどの粘膜が荒れると荒れたところに雑菌が入り込んで感染を起こしやすく、ますます荒れることがあります。口の中を清潔にし、感染を予防しましょう
  • 看護師から「口の中の乾燥と衛生に注意して」

    治療を始める前に歯や口のチェックを

    もともと虫歯や歯周炎があると、口内炎が起こりやすく、悪化しやすくなります。口内炎が悪化し、食事も飲み物もとれないような状態になると、治療の延期や中断が必要となってしまいます。治療を始める前に、歯科にかかって、虫歯や歯周炎がないかチェックしてもらいましょう。抗がん剤や放射線治療を開始してからも、定期的に通って、口内の衛生管理をしてもらうと安心です。

    口の中を清潔にして感染を防ぎましょう

    治療によって唾液が少なくなると、唾液の自浄作用が低下し、口内炎が起きると歯みがきもおろそかになりがちなため、雑菌が増えて感染が起こりやすくなり、悪循環になってしまいます。治療が始まる前から、うがいや歯みがきをまめにして、口の中を清潔に保っておくことがたいせつです。荒れた粘膜に触れずに歯と歯ぐきがみがけるような歯ブラシ(ヘッド部分が小さく毛先がやわらかいブラシなど)や歯みがき剤(刺激が少ないもの)を選ぶなど、くふうして続けましょう。歯みがきは、毎食後と寝る前の1日4回行いましょう。
    入れ歯は、弱くなった粘膜や荒れた粘膜に機械的な刺激を与え、症状を悪化させやすいので、装着は食事の時だけにしましょう。また、入れ歯も、細菌などがつかないように入れ歯専用のブラシで洗い、義歯洗浄剤につけておきましょう。

    口の中を観察しましょう

    口内炎ができやすいのは、頬の粘膜、唇の裏側、舌の側面(縁)などです。口内炎は、抗がん剤治療や放射線治療開始後、7日から10日たった頃から出てくる症状です。1日1回は、鏡を使って、口の中を観察しましょう。口の中で違和感がある場所、痛いところ、色が白かったり赤かったり変わったところ、出血がないかなどです。観察したことは、受診時に、医師や看護師に伝えます。口内炎で話しづらいときは、メモに書いて渡してもかまいません。

    口の中に潤いを

    頭頸部で唾液腺に影響が出る部位への放射線治療、また抗がん剤による口腔粘膜炎などで唾液の分泌が悪くなると、唾液の持つ自浄作用、保護作用、抗菌作用などが働きにくくなります。これを補うためにも2時間おきにうがいをしたり、水分をとるようにしましょう。うがいは、生理食塩水がしみにくくてよいでしょう。ご自分でつくるときは、以下の手順でつくります。
    1)1リットルのペットボトルをよく水で洗う。
    2)9gの食塩(小さじ2杯で10g)を計り、ペットボトルに入れ、1リットルの水を入れる。
    3)ペットボトルのフタをして、塩が溶けるまでよく振る。
    また、唾液の分泌が悪く口内乾燥があるときは、夜寝るときなどマスクをして寝るとよいでしょう。また、枕元に簡易加湿器をおいてもよいでしょう。

    ※口内炎があっても刺激の少ない歯ブラシや歯みがき剤が開発されており、歯科医で手に入れることができます。

  • 栄養士から「小さめ、やわらかめ、口あたりよく調理して」

    刺激物を避けましょう

    飲酒や喫煙は口の中の傷ついた粘膜をさらに傷めてしまいます。食事が刺激となり、粘膜の炎症を発症させることもあります。禁酒・禁煙はもちろん、刺激の少ない食事を心がけましょう。刺激物の中でも、もともと好きな味は刺激に感じにくいので注意しましょう。自覚がないまま粘膜が傷ついていることがあります。

    水分の多い食事に

    パサパサした食品は飲み込みにくいばかりか、口内を傷つけることもあります。水分の多いもの、やわらかくて口あたりのよいものが食べやすいでしょう。魚は刺し身や塩焼きより煮魚に。ひき肉もそぼろより、野菜の水分を加えた肉団子に。野菜もあえ物や炒め物より、煮物や汁物でとるようにします。
    主食も、おかゆやおじやに。パンはおかゆが苦手なら、牛乳に浸して口に入れるだけでも飲み込みやすくなります。

    控えたほうがよい刺激物~熱いもの、塩辛いもの、辛いもの、すっぱいもの、かたいもの、乾燥したもの、酸味の強い果物、、甘みの強いもの

    固形の食物はとろみで包んで飲み込みやすく

    固形の食物は、煮魚や野菜の煮物、肉団子などにしてやわらかくしても、口の中でほぐれたときに粘膜を刺激することがあります。そんなときのヘルパー役はあんやソースのとろみ。煮汁の残りに水どきかたくり粉を流して煮立てるだけで、簡単にとろみがつきます。
    とかしバターや植物油、マヨネーズ、練りごま、ヨーグルトなども、食物を脂肪の膜で包んでのどの通りを助けてくれます。食卓にマヨネーズや植物油を出しておき、食べにくいと思ったら垂らしてみるとよいでしょう。オリーブ油やごま油ならよい香りが食欲を促す効果も期待できます。

    細かく刻んで食べやすい形態に

    口内炎があっても、飲み込む力が保たれていれば、ほとんどの食材は、細かく刻んだり、ミキサーにかけたり、やわらかく調理することで食べられます。痛みが強くて、飲み込みもむずかしいようなら、ミキサーにかけた食材を裏ごししてピュレ状にしたり、ゼリーや寒天でとろみをつけたりして流動食にしましょう。

    注)誤嚥の心配のあるときは、さらっとした水分は誤嚥しやすいので、とろみをつけてみましょう。とろみ調整食品(「栄養補助食品(濃厚流動食を含む)の特徴と選び方」参照)などを利用しましょう。

    うす味を心がけましょう

    最も粘膜の炎症を招きやすい味は塩味です。少しでものどにしみる感じがしたら、うす味にしましょう。高血圧患者の塩分制限と異なり、問題はのどを通るときの濃度なので、「しみる」と思ったらぬるま湯などを加えてうすめればよく、口に入る塩分の量は影響しません。また、うす味をカバーする酸味や香辛料は使えませんが、うまみ成分は粘膜を刺激しません。こんぶや削りガツオ、鶏がらなどのうまみを使って、うす味でもおいしく食べられるくふうをしましょう。

    栄養士から「水分をこまめに補給しましょう」

    口内の乾燥を防ぐために水分補給を多めに

    治療のために唾液が少なくなっているので、こまめに水分を補給しましょう。家の中ですわったり寝たりして過ごしていても、1日に水だけなら1.2リットル、食事からの分も含めると2リットルの水分が必要だといわれています。外出時にはもちろん水分を携帯しますが、家の中でも手が届くところに水分を常備しましょう。
    また、においの気にならないごま油やオリーブオイルなどを口内に塗って乾燥がやわらいだという声もあります。

    水分補給におすすめのドリンク&メニュー~水、お茶、スポーツ飲料、ジュース、牛乳、アイスクリーム、シャーベット、氷、ヨーグルト、すまし汁、スープ

    氷は角のない丸いなめらかなものを

    氷を口に含むと、とけるまでじわじわと口内が潤うので、効果的です。ただ、口の中が荒れているときは、角氷の角が粘膜に当たるだけでも痛いものです。丸い形の氷ができる製氷容器を使うか、角氷を水にくぐらせて角を丸くしてから口に含みましょう。
    なお、炎症のひどいときは、水分でむせることがあるので、とろみを加えたり、ゼリータイプの水分補給食品などを利用しましょう。

    炎症が強いときはかんきつ系のジュースは控えて

    炭酸ドリンクはもちろんですが、オレンジやグレープフルーツなどのかんきつ系のジュースは酸味が刺激となるので、控えたほうがいいでしょう。また、甘すぎる飲み物は、口やのどの渇きを増すことがあります。コーヒーやいろいろな香りを加えた乳飲料も、苦味や香りでわかりにくいものの、糖分が高いので注意しましょう。

    食事ができないときは栄養補助食品の利用を

    口内の炎症がひどくて、あまり食事ができないときは、濃厚流動食(バランス栄養飲料)や栄養補助食品などを利用して、低栄養にならないよう注意する必要があります。こうした製品は、乳製品や大豆製品が多く、口内の荒れた部分にもしみにくく、飲み込みやすいというメリットもあります(濃厚流動食は「栄養補助食品(濃厚流動食を含む)の特徴と選び方」参照)。

    発熱、おう吐、下痢があるときは特に
    水分補給を心がけましょう

    エネルギーや栄養の補給には気を配っても、水分 を補給することは忘れてしまいがちです。特に、発熱、 おう吐、下痢などがあると脱水を起こす危険があるの で、水分の補給は重要です。