抗がん剤・放射線治療と食事のくふう

症状と対策

食欲不振の解説

食欲不振には、がん病変そのものや手術による後遺症が影響していることもあります。病気や治療への不安や不眠、うつなど、心理的な状態が影響することもあります。食欲不振が直接、治療効果を左右したり、命にかかわることはありませんが、長く続けば闘病意欲を低下させ、栄養状態が悪くなれば、治療も続けられなくなります。食欲不振を長引かせないためのくふうを紹介します。

  • 食欲不振で悩む患者さんの声

    抗がん剤治療を受け、食欲がまったくなくなり痩せるばかり。

    抗がん剤のあと1週間ほとんど食事がとれず、水分もとりたくなかった。
    気分がずっと悪いが、薬を飲んでいて吐くことはない。

    抗がん剤を服用中、副作用で日を追うにつれ食事がままならなくなり妻の配慮を感じながらも食材についてのわがままがわかってもらえず、いらいらが生じてしまった。

    抗がん剤の治療がつらく、まったく食事がとれなかったので、食事を少しでもとるのに苦労した。

    味覚が変わったことも含め食事がうまくとれず、体重が減っていくことへの不安。

    抗がん剤療法の9回目頃から体力低下を感じた
    投与後の食欲不振と気だるさ、5日間程度はふらふらの状態でまいった。

  • 医師から「まず、原因を見つけてみましょう」

    症状を周囲に伝えて、原因を探しましょう

    食欲不振は患者さん本人でなければ、正確な症状がわからないものです。まずは自分が今どんな状態で食べられないのかを周囲の人たちに伝え、原因を探しましょう。
    食欲不振くらいと遠慮したり、がん治療にはつきものだからしかたがないとがまんしたりすることは、けっして得策ではありません。担当医や看護師に相談して、いっしょに原因を見つけてもらいましょう。

    食欲不振はさまざまな要因で生じます

    がんに限らず、単なる風邪や心の病気でも、多くの患者さんが食欲不振を訴えます。そこで、食欲不振を訴えた場合、私たち医師は、患者さんの話を聞き、心と体のあらゆる状態を見て、総合的に原因を考えます。がんそのもの、治療の副作用・後遺症、落ち込んだ心なども、食欲不振を引き起こします。抗がん剤が原因となって起きている食欲不振の場合は、治療後、時間がたてば速やかに回復します。

  • 看護師から「精神的なストレスも原因になります」

    こころのガス抜きもたいせつ

    健康な人でも、食欲は心の状態に大きく影響されます。まして病気のときは、ちょっとしたことがストレスとなって、食欲が低下しがちです。心配なこと、不安に思うことはひとりでかかえ込まないことがたいせつです。
    副作用がつらい、治療をやめたくなった、治療の効果が心配、理由はわからないが気持ちが沈んで何もしたくないなどのときは、担当医、看護師、がん相談支援センターの相談員などに話をしてみましょう。心配や不安、どうしようもない気持ちの揺れを人に聴いてもらうだけでも気持ちが少し楽になることがあり、食欲も変化することもあります。

    食べられるときに食べられるものを

    治療中は体力を維持するためにも食事(栄養)は重要です。だからといって、「無理をしてでも食べなくては!」と食事を義務のように思っては、むしろ逆効果です。食べること自体が苦痛になり、食べられないときに必要以上に気に病む状況にもつながります。
    吐き気、胃もたれ、食欲不振などの消化器症状が一番つらい時期は、食事の回数や栄養価をあまり気にせず、「食べられるときに食べられるものを」食べましょう。

    症状がおちついたら栄養を意識してとりましょう

    症状が徐々にやわらいでくる時期になったら、栄養のバランスにも気を配り、食事と栄養(特にカロリーの高い食品やたんぱく質を多く含む食品)を意識して食べるようにしてみましょう。治療のために、必要な栄養をとり、体力と体重をできるだけ維持できるように努めることもたいせつになります。
    つまり、自分なりに緩急をつけて、

    • からだのつらさをやわらげることを第一優先にする時期
    • 栄養や体力の回復や維持のために自分なりにがんばることを第一優先にする時期

    と意識や生活にリズムをつくってみましょう。

  • 栄養士から「食べたいときに、すぐ食べられるよう用意しましょう」
    患者さんの声~食べたい、食べてみたいと思うものは

    食べやすいのは、さっぱり味、のど越しのよさ

    食欲不振に悩む患者さんが、「食べられそうかな」とあげてくれたメニューは上のとおりです。特徴は、冷たいすっきり味、酸味のきいたさっぱり味、はっきりとした味、のど越しのよいもの、口あたりがよいものです。果物や生野菜のように、水分が多く、シンプルなものも好まれます。

    すぐに食べられるくふうをしましょう

    食事の時間にこだわらず、「気分がいいし、食べられそう」と思ったときに食べれば、すんなりと食べられることがあります。そんなタイミングを逃さないよう、いつでも食べられる準備をしておきましょう。果物や冷菓を買いおきをしたり、食べやすい料理を作って小分けにして冷凍庫や冷蔵庫に入れておくのもよいでしょう。気にいった食品や料理はメモにして、家族や作る人にも伝えておくのも一つの方法です。

    目覚めの一杯で食欲を引き出しましょう

    朝、起き抜けに水や牛乳、ジュース、お茶など、飲み物をとってみましょう。胃が目覚めると同時に、食欲が湧いてくるかもしれません。オレンジジュースやヨーグルトドリンクなど、酸味のあるものは唾液や胃液の分泌を促すので、さらに効果的です。梅干しを白湯やお茶に入れて飲む梅茶は、梅干しが胃酸を中和してくれるので、胃がもたれるときも気分がすっきりして最適です。

    注)一部のEGFR(上皮成長因子受容体)阻害薬や降圧剤などの服用中はグレープフルーツはジュースでも避けましょう。

    栄養士から「栄養をとりやすいものを選びましょう」

    食べやすくて栄養価の高いものを

    栄養をとろうと意識しすぎて、それがストレスになっては困りますが、同じとるのなら、より栄養価の高いものを選びましょう。
    たとえば、主食ならおもちです。口あたりも消化もよく、少量で高エネルギーが得られます。食べやすいのはお雑煮、おしるこ、からみもち、安倍川もちなど。揚げるとさらに高エネルギーになります。揚げもちがしつこいようなら、大根おろしやポン酢しょうゆを添えると、さっぱりと食べやすいでしょう。
    汁物やスープなら具だくさんに仕立てると栄養価が上がります。ジュースも数種類の野菜や果物を組み合わせると、同じ1杯でもより多くの栄養をとることができます。

    食べやすくたんぱく質豊富な食品を探しましょう

    食欲不振のときは、主食や果物、シャーベットやジュースなど、糖質系の食品に偏りやすいので、たんぱく質が不足しがちです。
    しかし、抗がん剤治療中は、肉や魚はにおいなどから敬遠されがちです。食べやすいたんぱく質食品としては、大豆加工品、乳製品、卵などがあります。豆腐、納豆、チーズ、ヨーグルト、牛乳をじょうずに利用しましょう。手軽な市販食品もある温泉卵や卵豆腐、茶わん蒸しもおすすめです。

    注)低栄養の心配があるときは、栄養補助食品を利用するのも一つの方法です。詳しくはこちらを参照してください。

    楽しく食べられるくふうを

    1. 場所を変えて気分転換

    庭やベランダなど、いつもと違う場所で、友人との会話を楽しみながら食事をしてみては? 体調が許せば、お弁当持参で公園などに出かけたり、ロケーショ ンのよいレストランなどで外食するのもよい気分転換になります。食べること以外の楽しみをプラスしてみましょう。

    2. 彩りよく盛りつけて

    テーブルクロスや器の色や柄も、食欲を増す効果があります。料理の盛りつけも、彩りに気を配り、つけ合わせに色鮮やかな野菜やハーブを添えて、楽しさを演出してみましょう。その場合、つけ合わせは食べられなくてもよいと割り切っておきます。
    なお、気分によってはそうした演出をストレスに感じることもあるので、様子を見ながら案配しましょう。

    3. 少なめ、控えめをモットーに

    たくさん盛られた料理を食べ残すと、患者さんは食べられないことに不安を感じたり情けなく思ったりしがちです。むしろ、少ない量を食べきれた達成感が、食への意欲を引き出してくれるものです。料理は少なめ、食器も小さめのものを用意して、控えめに盛るよう心がけましょう。