乳房再建術後の 経過とケア

手術の方法と種類

乳房再建術の方法

乳房再建術の方法は、自家組織(自分の体の組織)移植と乳房インプラント(シリコン製人工乳房)を挿入する方法があります。ただし、乳房温存術後の再建では、乳房インプラントを使用しての再建はできません。

自家組織移植による再建と乳房インプラントを用いる再建

自家組織移植と乳房インプラントによる再建の特徴などをまとめました。
まず、大まかな違いを理解しましょう。

自家組織による再建
手術の方法 自分のお腹や背中などの組織を使って再建する方法
特徴
  • 温かくやわらかい乳房ができる
  • 体の動きとともに乳房が自然に動く
  • 手術時間や入院期間が長い
  • 自家組織を採取するため傷が乳房以外にもできる
  • 移植組織の血流障害を起こすことがある
乳房インプラントによる再建
手術の方法 シリコン製の人工乳房を入れて再建する方法
特徴
  • 乳房以外に傷はできない
  • 手術時間や入院期間が短い
  • 乳房が冷たい、硬いと感じることがある
  • 乳房が固定され、原則的に下垂した乳房を作ることができない
  • インプラントが経年劣化による破損を起こすことがある
  • 術後にインプラントの位置が変わる可能性がある

では、詳しく述べていきます。

自家組織移植による再建術

移植する自家組織に使用する場所(ドナーと言います)は、お腹、背中、お尻、太ももなどがあります。
一般的には、お腹と背中の組織を移植することが多いのでここでは、お腹と背中の組織を移植する手術法について説明します。

①お腹の組織を使って再建する方法

お腹の皮膚、脂肪、筋肉を使って再建します。
個人差はありますが、一般的には背中よりお腹のほうが多くの組織を採取でき、大きい乳房にも適します。
なお、お腹からの自家組織移植は、同じ方法で2回目の再建術を行う事はできませんので、将来反対側の乳房にがんが発生しても、お腹の組織を使っての再建術を受けることができません。

【遊離腹部穿通枝皮弁法(ゆうりふくぶせんつうしひべんほう)】⇒関連ページ:(遊離腹部穿通枝皮弁法

お腹の組織(皮膚・脂肪)に血液を供給する血管をつけて、胸の血管とつなぎ合わせて移植する方法です。

手術のイメージ
  • 筋肉は残るので、お腹の筋肉を使う動作への影響は少ないですが、血管を採取しますので、お腹の中では筋肉にも傷ができます。
  • お腹の手術を受けたことがある方は、手術の傷跡の位置によっては適さないことがあります。
  • 細い血管をつなげるので、血管がつまって血液の流れが悪くなると移植した皮膚・脂肪が壊死(えし)してしまうことがまれにあります。
  • 高度な技術が必要なので、受けられる医療機関や医師が限られています。
  • 妊娠・出産を考えている方は、担当医と相談してください。

【腹直筋皮弁法(ふくちょくきんひべんほう)】⇒関連ページ:(腹直筋皮弁法

お腹の皮膚と脂肪、血管を含んだ腹直筋(ふくちょくきん)をいっしょに胸に移植する方法です(「腹直筋」とは、いわゆる腹筋と呼ばれているお腹の筋肉の一つです)。

手術のイメージ
  • 穿通枝皮弁法と比べると受けられる医療機関が多いです。
  • 筋肉を取るので腹筋が弱くなります。また、穿通枝皮弁法より腹壁瘢痕(ふくへきはんこん)ヘルニアを起こす可能性は高くなります。
  • お腹の手術を受けたことがある方は、手術の傷跡の位置によっては適さないことがあります。
  • 妊娠・出産を考えている方は、担当医と相談してください。

お腹の手術などでできた腹壁の傷跡から、腹腔内の臓器が皮下に脱出する症状

遊離腹部穿通枝皮弁法と腹直筋皮弁法とでは、受けられる医療機関が異なることがありますが、近年の傾向としては遊離腹部穿通枝皮弁法の方が主流になりつつあります。

②背中の組織を使って再建する方法

背中の皮膚、脂肪、筋肉を使って再建します。一般的にお腹に比べ、再建に使える組織量が少ないので、乳房温存術(部分切除)後の変形の再建や乳房の小さい人に適しています。

【広背筋皮弁法(こうはいきんひべんほう)】⇒関連ページ:(広背筋皮弁法

背中の広背筋(こうはいきん)と皮膚、脂肪を血管がつながった状態で胸に移植する方法です(「広背筋」とは、背中にある筋肉の一つです)。

手術のイメージ
  • 一般的には移植する広背筋と脂肪は、肩甲骨より下の背中から採取します。
  • 広背筋を取っても他の筋肉が動きを補うので、日常生活にはほとんど支障はありません。
  • 移植した筋肉が収縮すると乳房の形が変わったり、乳房が小さくなったりすることがあります。手術時は自分の乳房より大きめの乳房を造ります。

乳房インプラントを用いる再建

シリコン製の人工乳房を入れる方法です。組織拡張器(ティッシュ・エキスパンダー)を入れて、数ヵ月の時間をかけて皮膚を伸ばしてからインプラントに入れ替えるのが一般的です。なお、乳房温存術を受けた方は、乳房インプラントでの再建はできません。

メリットは体への負担が少ないことです

乳房以外に傷はできず、手術時間も短いので自家組織移植に比べると、体の負担は少ないです。

検討が必要な点は?

  • 触った時に硬く感じます。
  • インプラントの形が決まっていますので、再建した乳房の形は完全な左右対称となりません。また、下垂した乳房には向きません。
  • 鎖骨の下の部分(デコルテ)は膨らみません。
  • 異物反応が起こる可能性があります。
  • インプラントは形が変わりませんので、年齢とともに自分の乳房との違いが出る可能性があります。

では、インプラント選択のポイントや注意点を少し詳しくお伝えします。

【インプラントの形と表面の性状】

インプラントの形には、ラウンド型(おわん型)アナトミカル型(しずく型)があります。「アナトミカル型の方がきれいな乳房になる」と思われがちですが、一人ひとり乳房の大きさや形が違いますので、「アナトミカル型=形の良い乳房になる」とは言えません。大切なのは、「ご自身の体にあっているか」ですので、「思い込み」で判断しないようにしましょう。
また、インプラントの表面の性状は、ツルツルタイプ(スムーズタイプ)ザラザラタイプ(テクスチャードタイプ)、その両方の中間型(マイクロテクスチャードタイプ)があります。
形や表面の性状の違いには、どれも一長一短がありますので、選択には担当医(形成外科医)とよく相談しましょう。

《インプラントの形》

ラウンド型(おわん型)
アナトミカル型(しずく型)

《インプラントの表面の性状》

テクスチャード
タイプ(表面)
マイクロテクスチャード
タイプ(表面)
スムーズ
タイプ(表面)

【被膜と被膜拘縮(ひまくこうしゅく)】

乳房インプラントは人体にとっては異物です。正常な生体反応として、人体は異物に接している筋肉や脂肪などの組織を守るために、異物を閉じ込めようとして膜を作ります。この膜が「被膜」です。「被膜」は誰にでも起こる現象で、乳房インプラントの位置を固定する役割があります。
一方で、個人差がありますが時間の経過とともに被膜は、異物をコンパクトにしっかり閉じ込めようとするために、少しずつ厚くなり縮もうとする現象が起こることがあります。この現象を「被膜拘縮」と言います。被膜拘縮が起こると中に入っている乳房インプラントが圧迫されるので、乳房が変形したり、胸が痛んだりする場合があります。
また、被膜拘縮が起こり、乳房インプラントが縮んだ場合、その上の伸ばされていた皮膚はその縮みに対応できなくて、皮膚にはたるみが生じます。そのたるみが「波打ち」のように見える現象を「リップリング(皮膚の波打ち)」と言い、外見上に問題が生じます
では、被膜拘縮を予防する方法はないのでしょうか?
ポイントは2つあります。

①乳房インプラントの表面の性状
②再建術後のドレーンの役割

①乳房インプラントの表面の性状

一般的に被膜拘縮は、乳房インプラントの表面がツルツルしたタイプ(スムーズタイプ)の方が、表面がザラザラしたタイプ(テクスチャードタイプ)より起こりやすいと言われています。なぜなら被膜の表面は乳房インプラントの表面の写しになりますので、ザラザラの表面に対しては、被膜の表面もザラザラに、ツルツルの表面に対しては、被膜の表面もツルツルになります。縮む性質は、直線の方が縮みやすいので、ツルツルの表面は拘縮しやすいと言えます。ただし、近年問題となっている「乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫」(乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)を参照)は、テクスチャードタイプのインプラントを使用した方での報告が多いので、担当医(形成外科医)とよく相談しましょう。
なお、ツルツルとザラザラの中間型であるマイクロテクスチャードは、乳房再建術に使用されてから歴史が浅いので断言はできませんが、「乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫」の発症は少ないと言われています。

②再建術後のドレーンの役割

乳房インプラントでの再建術後に入っているドレーン(皮下に溜まってくる血液や浸出液を外に誘導するための管)の役割も重要です。インプラントの周りに血液や浸出液が溜まると、ツルツルの層ができて、被膜の表面もツルツルになります。「ツルツルした表面は縮みやすい」と説明をしました。将来の被膜拘縮予防のため、被膜ができるまでの間はなるべく乳房インプラントと自分の組織を密着させておく必要があります。
そのため、ドレーンが入っている時から「バンドでしっかり押さえましょう」、「激しい動きはやめましょう」という話になります。