放射線治療と口腔粘膜炎
・口腔乾燥

放射線治療と口腔内トラブル
口腔粘膜炎・口腔乾燥を中心に

全身に影響が及ぶ薬物療法とは異なり、放射線治療は放射線が当たった範囲に影響が及びます。細胞は分裂を繰り返すことで成長(再生)します。放射線は、細胞が分裂できないように、細胞の遺伝子(DNA)を切断します。分裂ができなければ、細胞は生まれ変わることができなくなります。正常細胞もこの影響を受けますが、正常細胞はがん細胞に比べ修復する能力が強いので、放射線治療はこの差を利用して治療をしています。
口腔内に放射線が当たると、口腔粘膜や唾液腺(だえきせん)などが影響を受け、口腔粘膜炎や唾液腺障害が起こります。口腔粘膜炎の症状には、「口の中の痛みや出血」、「熱いものや冷たいものがしみる」などがあります。これは、放射線により唇やほほ、舌などの、口の中の粘膜がダメージを受けて、炎症が起こるためです。 口腔乾燥の症状は、「口が渇く」、「口の中がネバネバする」などがあり、放射線の影響で唾液の分泌量が減ることで起こります。口腔乾燥の影響には、不快感だけではなく、むし歯ができやすくなる、話しづらい、食事が食べにくい、味覚が変化するなど様々です。
一般的には、どちらの症状も治療開始後2週間頃から症状が現れ、長期間の治療中、症状が持続する場合が多いので、口腔ケアはとても大事になってきます。強い痛みや食事がしにくい、美味しくない、話がしづらいなどの症状は患者さんの日常生活の質に大きな影響を及ぼします。また、炎症による口の中の傷口から細菌が入り、全身感染症になる場合もあります。このような状態にまで悪化すると、放射線治療が継続できず、休止や中止になってしまう場合もあり得ます。

現在のところ、放射線治療による口腔内トラブルを完全に防ぐ方法は確立されていません。しかし、あらかじめ準備したり、早めに対処することで、症状をうまくコントロールすることが可能です。口の中は自身でも観察しやすく、早期に変化に気付くことができたり、自分で症状を和らげるように対処をすることが可能です。それには、患者さん自身が対処法を理解し、実践していくことが必要になります。医療者と相談しながら、その時どきで必要なケアを行っていきましょう。