がんの骨への転移と
日常生活

骨転移(こつてんい)の治療法

治療法

痛みを緩和させる治療と骨への直接的な治療があります。

痛み止めの薬

鎮痛剤を使用して、痛みを和らげる治療です。痛みの程度によって使用する薬剤を選択します。複数の薬を用いる場合もあります(詳細をお知りになりたい方は静岡がんセンターのサイトの「痛みをやわらげる方法~おくすりのお話~」をご覧下さい)

骨修飾(しゅうしょく)薬

がん細胞は破骨(はこつ)細胞による骨吸収*の働きを利用して骨に転移します(骨転移のメカニズムを参照)。がんの骨転移の治療では、この破骨細胞の働きを抑えて骨転移を進行させないことが重要です。骨転移の進行を抑制する薬のことを「骨修飾(しゅうしょく)薬」と言い、代表的ものには、骨表面に吸着し破骨細胞に取り込まれることで内側から細胞を壊す薬(ビスホスホネート製剤)と、細胞を活発にする外からの刺激をブロックして、破骨細胞を動けなくする薬(抗RANKL抗体製剤)があります。

*骨吸収・・・古くなった骨を溶かす働きのこと(骨のリモデリング(骨の代謝)を参照)

ここに注意! 骨修飾(しゅうしょく)薬の副作用

骨修飾(しゅうしょく)薬には、いくつかの副作用があります。薬の種類で副作用に違いがありますが、ここでは知っておいていただきたい症状についてお伝えします。

  • 発熱
    ビスホスホネート製剤を投与して1~2日後に発生します。一過性の症状ではありますが、発熱があった場合は水分をこまめに摂り、解熱剤があれば内服するようにしましょう。解熱剤がない場合や体がつらい場合は、各医療施設の指示に従って下さい。
  • 腎障害
    ビスホスホネート製剤で発症しやすい副作用です。自分ではわかりにくい副作用なので、定期的に血液検査を行います。
  • あごの骨の壊死(えし)、あごの骨の炎症
    骨修飾(しゅうしょく)薬の治療中に、あごの痛み、腫れ、歯ぐきの痛み、膿がでる、あごの骨が出てきたなどの症状が現れたときは、すぐに担当医に相談しましょう。あごの骨の壊死(えし)や炎症は、きちんとむし歯や歯周病を治していないと起こりやすくなると言われています。骨修飾薬(こつしゅうしょくやく)による治療を始める前に、歯科受診して口の中のチェックと口腔内を清潔に保つ方法を指導してもらう事が大切になります。また、骨修飾薬の治療中に歯科治療を受ける場合は、骨修飾薬の治療中であることを必ず歯科の担当医に伝えて下さい。治療中の抜歯処置などには十分な注意が必要とされています。
    骨修飾薬の治療中に露出したあごの骨
  • 外耳道骨の壊死(ビスホスホネート製剤)
    耳の痛み、耳だれ(耳漏)などの耳の異常が続く場合は、担当医に相談しましょう。
  • 低カルシウム血症
    血液中のカルシウム濃度が下がる状態です。抗RANKL抗体製剤の方が重症化しやすいと言われています。唇や手・指のしびれなどが初期の症状です。これらの症状は薬剤にもよりますが、投与後から2週間くらいの間で出現することが多いと言われています。抗RANKL抗体製剤の場合は、予防のための内服薬が必要です。
    症状があった場合は、担当医に相談しましょう。

放射線治療

放射線治療は、放射線を当てた範囲のがん細胞の量を減らし、痛みをやわらげたり、骨折や脊髄圧迫による下半身麻痺を予防したりすることが期待されます。がんの種類によっては、放射線を当てた範囲のがん細胞が完全に消える場合もあります。手術に比べて体の負担が少ない治療法で、痛みがあり画像検査で骨転移の診断がついた場合は、第一選択になる場合が多い治療法です。

放射線治療の効果

  • 痛みの緩和
  • 骨折や下半身麻痺の予防
  • がん病巣の縮小
  • 壊れていた骨を再生
  • 骨転移に対する手術後の手術部位の悪化の防止

ただし、放射線治療にもだるさや吐き気、放射線治療を行った部位の皮膚の赤みやかゆみなどの副作用が発生することがあります。これらは薬で軽減させることが可能なので、何か症状がありましたら、担当医に相談しましょう。また治療を行っている最中の数分間は、同一体位を維持する必要があるため、痛みがある場合は事前に痛み止めの使用が必要な場合があります。

放射線治療後の骨の再生

【放射線治療前】
【放射線治療範囲】
【放射線治療1年後】

手術

手術は、骨折や脊髄圧迫が起きてしまった場合に行います。また骨を補強して骨折を予防するために行われる場合もあります。手術の目的は、患者さんの状態により、以下の3通りのものがあります。

手術の目的

  • 痛みの緩和
  • 移動能力(歩行など)の維持や再獲得
  • 局所的な根治(がん転移部の切除)

しかし、手術はからだに大きな負担をかける治療なので、どんな状態でも行えるわけではなく、手術によるメリットが手術のリスクを明らかに上回る場合に行います。具体的には、腕や大腿(だいたい)の骨(太ももの骨)に病的骨折を発症した場合は、痛みが強いので、できる限り手術を行います。切迫(せっぱく)骨折(切迫(せっぱく)骨折、病的骨折とは?を参照)の場合は、患者さんの病態により手術を行う場合と放射線で治療する場合があります。背骨(脊椎)では、さまざまな要素を考慮して手術をするか否か決定します。

背骨(脊椎)の転移に対し、手術を行うかの判断に影響を及ぼす要素

【脊椎転移MRI 画像】
  • 患者さんの病状・全身状態
  • 放射線治療の有効性
  • 薬物療法の有効性
  • 骨転移(こつてんい)の数
  • 麻痺の程度
  • 痛みの程度 など

リハビリテーション

骨転移の治療は、薬物療法、放射線治療、手術療法だけではありません。必要に応じて、杖やコルセットなどの補装具を使用したり、リハビリテーションで筋力低下を防いだり、治療や病変に合わせた日常行動の方法を習得することで、質を維持しながら無理のない日常生活を送ることが可能になります。自己流ではなく、リハビリ専門の医療従事者に指導を受けるようにしましょう。